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第五八話 巨妖

Auteur: 文月 澪
last update Dernière mise à jour: 2026-01-13 16:00:14

 それは全長四メートルにも及ぶ巨大な妖魔だった。四肢で這いつくばり、不揃いな牙がザワザワと蠢く真っ赤な穴だけがぽっかり開いた頭部。太く短い脚には鎌の様な鋭い爪が鈍く光り、ぶくぶくと肥太った腹を引きずるようにして振り返ったそれは上空から律達を睥睨すると地を揺るがす咆哮を上げた。

 ――ヤバい。これじゃ麓まで届いちゃう。

 いくら山中といっても、市街からはそれ程離れていない。声もそうだが、この大きさでは木々の合間から目撃される可能性があった。今のご時世、録画機器は身近にある。それを拡散するツールも豊富だ。もしネットの海に広がってしまえば、国の力を持ってしても抑え込むのは至難の業だろう。一刻も早く始末する必要がある。

 しかし、その霊圧は呪いの相乗効果も相まって、今や序列十位にも迫る勢いだ。ここまで成長してしまっては、律とて易々と討伐する事ができはしない。それに加えこの大きさ。数ではこちらが勝るとはいえ、手駒が心許ない。

 唯一の利点は満月で、明るく妖魔の視認が容易な事くらいか。

 だが、それでもやるしか選択肢は無いのだ。例え死への道しか無くとも突き進む。それが陰陽寮に身を置く者の運命だ。しかし、律に死ぬ気は毛頭なかった。死ぬなら優斗と共に。今まで惰性で生きてきた律の目に光が宿る。

「美津代さん。ちゃんと記録取ってるよね? ︎︎前情報も穴だらけだったんだから、ちゃんとやってよ。後処理の手配もよろしく。できたらあの変なのも捕まえたいけど、そこまではちょっと無理かな~。サンプルだけでも上等でしょ」

 イヤーモニターに声をかけると、騒然とする音が聞こえる。この様子はカメラを通して情報部へ中継されているのだ。突如として現れた脅威に、本部もてんやわんやなのだろう。その音に紛れて、小路の抑揚のない声が返った。

『了解しました。すぐに応援を編成します。ご武運を』

 それだけ言うと音が遮断される。生き死にの状況にあっては多少の雑音も命取りだ。こちらの音声はカメラで共有されているから問題は無い。律は唇を舐めると部下に指示を出す。

「想定より強い奴が出てきちゃったけど、やる事に変わりは無いよ。妖魔を殺す。それだけ。映司さんと駿さんは左右から脚を狙っ

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